便利屋タコ坊

便利屋タコ坊 1987年9月~1994年3月

当時学歴社会の真っ只中、アホだけど情熱だけはある高卒の3人が、川の流れに逆らって上流に向かう鮭のように時代に逆行しようと小さな会社を立ち上げた。
誰かにこき使われて顔色を伺いながら生きるより、てめぇの会社を守るために、はいつくばって生きる道を選んだ。
何の特色技術も資格もコネもない3人が始めたのは、逆転の発想で「だったら何かに特化しないで何でもやる会社を作ろう!」と「便利屋タコ坊」という当時もっともキテレツな名前の会社を作ったのである!!
若干22歳の夏の終わりのことだ。

第二十話 「便利屋最後の依頼、命がけの夜逃げ屋タコ坊」「おはようございます!じゃあ今日の現場の確認です!」朝8時、便利屋の事務所から元気な声が聞こえてくる。十人くらいの若者が事務所に集まっている。「まずお好み焼き能呂の掃除を、バイトの板尾君...
19/08/2021

第二十話 「便利屋最後の依頼、命がけの夜逃げ屋タコ坊」

「おはようございます!じゃあ今日の現場の確認です!」
朝8時、便利屋の事務所から元気な声が聞こえてくる。十人くらいの若者が事務所に集まっている。
「まずお好み焼き能呂の掃除を、バイトの板尾君、鷹田君、有田班でお願いします。車は2号車のトラックで。外の窓拭きですが、アップスライダー使うとき気を付けてくださいね。有田、頼んだぞ!必ず誰か一人下で押さえてください。
次は葛南葬儀社のお手伝いにバイトの朝熊君お願いします。電車で行ってもらいますが、この現場は初めてですよね?後で地図を渡します。
じゃあ次、日南住販のマンションの内装工事、石清水とバイトの堀腰君、私の藩でお願いします。車は4号車で行きます。それで堀越君は夕方、渋谷東急に移動して吉祥堂の搬入のお手伝いよろしくお願いします。搬入口分かるよね?
そして清新町の青山邸は、昨日に引き続き羽嶋さんと赤藤と鈴鹿でお願いします。1号車です。後で涌田さんが特注の棚を届けるそうです。
じゃあみなさん、世間ではクリスマスムードですが、今日も気を引き締めて事故の無いようによろしくお願いします!」
出掛けている涌田の代わりに仕切っているのは、羽嶋之雄ではなく去年入社した吉永だ。すっかり仕事の段取りも覚えて頼もしい存在になっている。吉永たちの入社から一年以上たった一九九四年のこの頃は、便利屋という看板をかかげてはいるものの、仕事の依頼はリフォームと掃除と人材派遣がほとんどで、たまに引っ越しがあるくらいだ。何故か昔のような便利屋らしい仕事は激減していた。
事務所からぞろぞろと人が出てきて、車に荷物や材料を積んだり、アップスライダーという可動式の長い梯子をトラックに積んだりしている。「やったー、今日はラッキー」とか「うわー、吉祥堂か。きついなあ」などと口走るバイトたち。
タコ坊のジャンパーを着ているのが便利屋の社員でそれ以外はアルバイトだ。いつの間にか赤藤と石清水と鈴鹿という新人社員が増えている。去年に続いて一九九四年にも社員を募集した。石清水はタコ坊初の女性社員だ。ガテンの募集広告を見てきた職人希望の逸材だった。

そのころ涌田広幸は旧便利屋事務所、つまりは実家なのだが、その近くを流れる中川の土手に寝転んでいた。
現場に届ける特注の棚を受け取りに近くまで来たので、ついでに久しぶりに実家で朝飯を食べて、腹ごなしに土手まで出てみた。
十二月にしては暖かく、寝転んで空を見ていると、小春日和の真っ青な空に白い雲を引きながら飛行機が飛んでいた。
じっとその飛行機を見ているうちに意識がタイムスリップして、今見ているはずの飛行機の中に、七年前のアメリカから帰ってくる自分がいた。
何をやってもうまくいかず、空回りの人生に焦り、何でもいいから自分の人生で納得のいく大きなことをやってみたくてギラギラしていた。
まだこれから起こるドラマのような冒険の数々の何一つ知らず、可能性だけの未来に期待と不安でいっぱいだった頃。
「すべては、あそこから始まったんだな」
機内で今にも泣き出しそうな顔をしている自分が可笑しかった。
「心配すんな、これからめちゃくちゃ面白い未来が待ってるぞ!」
そう呟いてみたが、声が届くよりも早く飛行機は空の彼方へ消えていった。
岡野と出会って、須々木を巻き込んで、羽嶋がやってきて、あれからあっという間に時間が過ぎたような気がするけど、ここまではいい人生だ。これからだって見たい夢はまだまだある。しかしいつまでも仲間に甘えているわけにはいかないな。
「さて、じゃあ家具を引き取って現場に向かうか」
そう言って立ち上がったとき携帯電話が鳴った。吉永からだった。
「何かあったのか?」
「すいません、今飛び込みで仕事の依頼があったんですけど、ちょっと厄介そうな案件で・・・」
「どんな依頼だ」
「簡単に言うと、夜逃げですね」
「夜逃げ!?」・・・久しぶりに便利屋らしい仕事だ。
「で、すみません。ボクもう出なきゃいけないんで、涌田さん依頼者と話してもらえますか?五分後に涌田さんの携帯にかかってきます」
「分かった。任せろ!」
涌田は実家に停めてあったホロ付きのトラックに戻って電話を待った。すぐにかかってきた
「はい、便利屋タコ坊の涌田です」
「あ、どど、どうも、神山です」中年男性の声だ。少し怯えている様子だ。
「話は伺ってます。あの、これは自宅からの電話ですか?」
「いえ、公衆電話です」
「よかった。ではお話しください」公衆電話なら取りあえず盗聴はないだろう。
「す、すいません、お願いできますか?」
「安心してください。法に触れない限り依頼を断ることはありませんから。どころで、会って詳しい話を伺いたいんですが、ご住所は?」
「えーっと、西葛西なんですが・・・家はちょっとまずいので、私がそっちに伺います」
西葛西か、じゃあ清新町のパトリエの方が近いな。ちょうど棚を引き渡しに行くしな。
「じゃあ神山さん、清新町のパトリエ分かりますか?ええ、そうです。そこの一階にインテリアTACOBOというカーテン屋があるんですが、そこにお昼の11時に来てもらえますか?はい、もし誰かに監視されているとしても、便利屋の事務所よりはよっぽど怪しまれないですから。じゃあ後ほど」と言って電話を切って煙草に火を点ける。
「夜逃げか・・・」と一人呟く。

オーダーファニチャー「D‐in」に着く。オーナーの入口さんは若手だが、特注の家具を専門に作る凄腕の職人だ。特殊なカンナを使いこなしどんな曲線でも作り上げる。
「毎度!タコ坊です」ドアを開けるとシューっと木肌を削る心地よい音が聞こえた。
「ああ、タコ坊さん。出来てるよ」木くずを払いながら入口が答える。

10時45分。羽嶋たちの現場に美しく仕上がった棚を納めてからパトリエに着いて、裏口から店に入る。インテリアTACOBOも赤と緑を基調にした装飾が施され、パトリエ全体に流れるBGMはクリスマスソングだ。
「うぃーっす!」と缶コーヒーを四本渡す。
「おう、お疲れ!サンキュー」と店長の岡野芳樹がコーヒーを受け取る。
「お疲れ様です!」と、大越と目高みずほが駆け寄ってくる。
目高みずほ!?
そう、つまりはそういうことで、今年の夏からそれまで働いていた千葉の不動産を辞めて、ここインテリアTACOBOで働いているのだ。もちろん涌田との関係は便利屋全員承認済みだ。彼女は思った以上に機転が利き、接客もうまく、第一毎日やる気に満ち溢れていて、岡野と大越の二人のときと比べて店がぱっと明るくなった。

「岡野、11時にここに便利屋の客が来るんだ。お前も一緒に話を聞いてくれるか?ちょっと問題ありな現場なんだ」と涌田が言うと
「ははーん、もしかしてその依頼人神山って言うんじゃねえか?」と岡野が言った。
「え!何で知ってんの?」
「いや、10時半ごろその男が来て、誰かとここで待ち合わせをしてるって言うんだけど、肝心な誰と待ち合わせなのかが分からないって言うからさ、追い返したよ」
「あちゃー。すまん、お前に電話しておくんだったな。11時だって言ったのにまさかそんなに早く来るとは」

注)一部画像を拝借している物もあります。

第十九話 「悲しい別れと新しい試みのインテリアTACOBO」「どう思う?」と1号涌田が言った。「お前、本気なんだな?」と3号岡野が涌田の顔を見て訊く。「当たり前だろ」「いいかげんな気持ちじゃないんだな?」4号羽嶋も訊き返す。「真剣に考えてる...
14/08/2021

第十九話 「悲しい別れと新しい試みのインテリアTACOBO」

「どう思う?」と1号涌田が言った。
「お前、本気なんだな?」と3号岡野が涌田の顔を見て訊く。
「当たり前だろ」
「いいかげんな気持ちじゃないんだな?」4号羽嶋も訊き返す。
「真剣に考えてるんだ。で、お前らの感想はどうなんだ?」
2号須々木忠助は黙ったまま、首を左右に発言する者の顔を見る。
「正直に言うぞ」
「ああ、言ってくれ」
「思ったより広いな」と3号。
「まあ、場所的にはなかなかいいんじゃない」と4号。そして2号は黙ったまま目の前の肉屋を見ている。
「だろ?じゃあ決まりだな。来年平成五年の三月からここに輸入カーテンと絨毯を取り扱うインテリアショップを出店するぞ。何といってもここは清新町唯一のショッピングセンターだからな。隣は大型スーパーマルエンだし、人通りも多いぞ。岡野、お前がこの店の責任者だ。頼んだぞ」1号が、鼻の穴を膨らませながら話す。
「おう、任せとけ。清新町はちょうど築十年の高層マンションだらけだから、きっとリフォームの依頼が殺到するな。リフォーム隊長羽嶋、工事の方は頼んだぞ」
「あーあ、ついに調子こいちゃったねえ。こんな大それたこと始めちゃって、潰れたとき大変だよ。うちはスーパーの中で総菜屋やってるからよく知ってるけど、店は始めるときより潰れたときが大変なんだから。そりゃあもう悲惨だよ」と4号が臨場感たっぷりに話していると
「お兄ちゃんたち、今度この店の後に入る人かな?」と声をかけられた。
「ええ、そうです!」涌田が目をキラリと輝かせて答える。
「じゃあ、悪いけどそういう話しはもっとあっちでやってくんないかなあ。わしら年末一杯までまだ営業してるんでね」
来月の十二月で閉店する肉屋の親父さんが悲しい目をして言った。
「す、すいませんでした!」と言って立ち去るタコ坊たち。

ここ清新町は、江戸川区の中で最も高層住宅が密集した地域で、学校や公園、陸上競技場まで整備されている、当時都心に最も近いベッドタウンであった。埋め立て地であるため地形は閉鎖的で、日常的に買い物をするなら最寄り駅の西葛西駅前か、清新町の中にあるこの唯一のショッピングセンター「パトリエ」しかない。そのパトリエの中に、輸入カーテンや絨毯を販売するインテリアショップを開こうというのが今回の話だ。
輸入カーテンや絨毯をどうやって取り扱うのかと言えば、実は実際に現地に買い付けに行っていて、江東区を拠点に展開している大きなインテリア店「イシシバ」と業務提携を結び、そこから仕入れをするのだった。だからカーテンや絨毯からの利益率はかなり落ちるのだが、店を出す狙いは清新町の五千世帯に迫る住居のリフォームをじかに請け負うための手段であった。販売部門でパトリエの家賃と一人分の人件費が賄えられれば、十分に勝算がある。
ここは勝負時だと立ち上がり、店長に抜擢された岡野が商品知識を身に付けるために、十二月からイシシバに丁稚奉公に行った。

そんな一九九二年の十二月のクリスマスイヴ。夜の8時ごろ岡野が丁稚から便利屋事務所に帰って来ると、ちょうど羽嶋と須々木も現場から帰ってきたところだった。事務所のドアを開けるとFM放送の音楽番組がサザンの「涙のキッス」を流していた。
「おう、お疲れ。どうだちょっとはカーテンに詳しくなったか?」と事務所でサザンの曲に合わせて歌いながら帳簿を付けていた涌田が岡野に訊いた。
「ああ、詳しいどころか、もう博士レベルだぞ」といつものようにほらを吹く。
「あれ、吉永たち新人はまだ現場?」と岡野が羽嶋に訊く。
「岡野、今日はクリスマスイヴだぞ。みんなとっくにそれぞれデートに出かけたよ」と羽嶋が手に付いたペンキをシンナーで落としながら答える。
「やるねえ、最近の若いもんは!」と岡野が言うと、珍しく須々木が「よし、じゃあ今日は初代タコ坊の四人でパーッと行きますか!」と手を叩いた。
「あー、忠ちゃんごめん。俺、今日はこれがこれだから」と岡野が小指を立てたあと、お腹のあたりをまあるく描いた。
「そうか、カミさん来月が予定日だったな。親父になる心境ってどうなんだ、岡野?」と涌田が言うと「いやあ、実感わかねえな。とにかく元気に生まれてくれればそれで十分だよ」といつになく真面目に答える。「だから、悪いけど今日は帰るわ」
すると羽嶋も「あ、俺も今日は帰ってやりたいんだよね」と立ち上がる。
「そっか。家庭があるんだからそりゃあそうだよね。じゃあ涌田、ふたりで一杯やりますか!」と須々木が涌田の肩をポンと叩く。
「・・・いやあ、忠助悪い。俺も今日はこれからちょっとな」と涌田がばつの悪そうに答える。
「えー!マジっすか!?」
FMラジオのDJが次の曲名を告げる。
「それではリスナーの皆さん、こんなクリスマスイヴの夜に一人でいる君に送ります!槇原敬之の『もう恋なんてしない』どうぞ!」
♪君がいないと何もできないわけじゃないと ヤカンに火をかけたけど 紅茶のありかが分からない・・・

人は皆紆余曲折を繰り返し、少しずつ成長していきながら、いつかそれぞれの幸せを見つけていく。
しかし中には生きることが不器用な人間もいて、乗るはずの汽車に乗り遅れてしまうことがある。
一人ホームに佇んで須々木忠助は夜風にあたって考えていた。

注)一部画像を拝借している物もあります。

第十八話 「タコ坊高度成長の時代、4号の結婚と新入社員」年が明けて一九九二年。ここのところ便利屋タコ坊は呪われている。去年の年末には2号須々木が仕事中に、小型電動ノコギリで手首を切るという事故を起こし、危うく左手が一生動かなくなるところだっ...
13/08/2021

第十八話 「タコ坊高度成長の時代、4号の結婚と新入社員」

年が明けて一九九二年。ここのところ便利屋タコ坊は呪われている。
去年の年末には2号須々木が仕事中に、小型電動ノコギリで手首を切るという事故を起こし、危うく左手が一生動かなくなるところだった。大事な神経や腱は何とか無事だったが全治三ヶ月の重傷を負った。
更に年が明けると1号涌田が引っ越し業務の最中にトラックの荷台から落っこち、足を骨折。便利屋業務に大打撃を与える。
追い打ちをかけるように3号岡野が、千葉の市川から引っ越したばかりの江東区の公団のアパートで水漏れ事故を起こした。

「なあ、この一連の不運な事故の連鎖をどう思う?」1号がギプスをはめた足を机に投げ出した格好で煙草に火を点けながら言った。
「いやまあ、これは俺の不注意だから」と2号はまだ包帯が取れていない左手をさすりながら答える。
「確かにこれだけ続くと不吉だな。間違いなくこれはもっと悪いことが起きる前兆だぜ」と3号が椅子をくるっと4号羽嶋の方に向けて言った。
「何?次は俺ってこと?」と4号が慌てて吸っていた煙草を消した。
午後1時過ぎ、珍しくこんな時間に便利屋のフルメンバーが事務所で顔を合わせている。皆、新着したばかりのシルバー地に赤い刺繍で社名の入った便利屋ジャンパーを着ていたが、何故か羽嶋だけは私服を着ていた。コットンのパンツで、柄のシャツの上にオレンジのカーディガンを羽織り、プライベート用の黄色い眼鏡をしている。
「いや、むしろ全ての事故の元凶が羽嶋、お前のせいなんだよ」と3号。
「何で俺のせいなんだよ」
「そりゃあ、お前が結婚なんかしようとしてるから、世の中に異変が起きてるんだよ」
「確かにそれはまずいな。羽嶋之雄が結婚。そんな不吉なことしをたら富士山が噴火するんじゃねえか」と1号。
「バカ言ってんじゃねえよ。俺みたいにまともで優秀な人間が結婚しないことの方がおかしいだろ」
「はー!?麻美ちゃんだっけ、彼女。お前が酔っぱらったところ知ってんのか?路上でケツ出してエリマキトカゲ、あ、痛たたた・・・」1号が羽嶋の真似をしようとつい身を乗り出してしまい、骨折した足に響いた。

実は、ストレス発散には運動よりも読書のほうが1.5倍も効果があるそうだ。3回目の緊急事態宣言が発出された。GWにでも読んでみようか。😎
23/04/2021

実は、ストレス発散には運動よりも読書のほうが1.5倍も効果があるそうだ。
3回目の緊急事態宣言が発出された。GWにでも読んでみようか。😎

【先行発売!『セールスの絶対国語辞典 ―哲学編― 』】

待ってました!
『セールスの絶対教科書 ―実践編―』に続く、3年ぶりの最新刊の先行発売が決定!

4月28日頃先行発売!
※一般書店の発売は5月20日頃。

◆ 『セールスの絶対国語辞典 ―哲学編― 』
ご注文はこちらから↓
https://dokusume.shop-pro.jp/?pid=159198301
 
当店大人気!
『スタンド・バイ・ユー』、『オーマイ・ゴッドファーザー』、『セールスの絶対教科書』著者、岡根芳樹さんの3年ぶりの最新刊は、まさかまさかの『絶対国語辞典』!

◎岡根芳樹さんの本棚ページはこちら↓
https://dokusume.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=2436439&sort=n

前作も、〝演劇の台本風〟の「セールスの教科書」ということで、セールスのお仕事を されている方を越えて、商売や、教育、子育て、人間関係全般に〝活かせる〟知恵が満載 の1冊で、本当に沢山の方に喜んでいただきましたが…、
最新作の『絶対国語辞典』の テーマは、ずばり「哲学」!

しかも、「教科書があるなら、次は国語辞典」という発想から、「あ」から「ん」まで、 岡根芳樹さんがピンときた一つ一つの漢字と真剣に向き合って生まれた、唯一無二の 〝偏った〟人生観を綴った国語辞典です。

実際に読んでみて、今までの『スタンド・バイ・ユー』、『オーマイ・ゴッドファーザー』 、『セールスの絶対教科書』などの岡根さんの著書に通じる「教え」や「哲学」のベスト版 であり、「悪」や「嘘」、「損」、「謎」、「暇」など、常識的にはマイナスに感じることも、 逆のものさし的にひっくり返して、日常生活に活かしてしまう思考法が満載!

今まで岡根芳樹さんの本を読まれていた方はもちろん、ご自分の「哲学」や中心軸である 「縦軸」を作り上げるヒントが欲しいという方も、世の中的に立ち止まらざるを得ない 〝今こそ必読〟の1冊です。

もちろん、今回の新刊も、読み応え抜群で面白おかしく読める上に、なんと!この本の どこかに「読書のすすめ」が登場します。 どの漢字のところにドクスメが登場するのか?にも注目しながら、是非お楽しみに!

「哲学を持たない人間は常に迷っている。

 一般的な意味における哲学とは少し違う。私が言う哲学とは、その人にしかない「偏った価値観」である。ネットで調べてかき集めた、正しそうな受け売りの知識ではなく、その人が自分の人生の中で実際に迷い、苦しみ、もがいた末にたどり着いたこだわりや人生観のことだ。 セールスとは、ただ単に物を売るだけの行為ではない。セールスとは、人と出会い、人間関係を築き、コミュニケーションを通して相手の価値観に影響を与えることである。
 平凡でありきたりな価値観には、誰も影響は受けない。経験によって生まれた言葉でなければ、どんなにいい言葉でも心には響かない。相手の価値観に影響を与えられるのは、人生を通して自分の哲学を磨き続け、非凡で魅力的な価値観を持っている者だけだ。
 すなわちセールスマンたる者、哲学を持たなければいつも迷っているただの物売りと化してしまうであろう。わからないことがあればすぐにネットで検索し、成功者がいればすぐに信者になり、妄信的にただやり方を真似し、うまくいかなければ自分には合わなかったとまた別の成功者を求めてさまよう。
 全国で講演をしていると、そういうセールスマンによく会うことがある。すぐに成果に結びつく「やり方」の答えばかりを求めて、うまくいかない原因が「あり方」にあることに気づけない者たち。根が張り巡らされる前に、枝葉ばかり大きくして実をつけようとするから枯れてしまうのだ。」
 
「セールスマンたちよ、哲学を持て!
この本は、私が長年セールスマンとして歩んできた人生の中で培った、ユニークで、 強烈で、随分と偏った価値観を記した哲学書である。
 私は決して真面目に生きてきた訳 ではない。かといって不真面目に生きてきた訳でもない。馬鹿なことを繰り返し、何度も転び、紆余曲折だらけの人生を送ってきた。だからこそ、私の価値観はとても偏っているのだが、良く言えばその分だけ味がある。」

「経営にしても商売にしても、哲学のない教育ほど悲惨なものはない。
 これは子育てにおいても同様である。哲学を持たない親は、常に正解を求め続け、賢そうな人の話や本に流され右往左往している。挙句の果てには迷宮へと入り込み、犠牲者となった子どもは、自分の可能性に気づくことなく、「自分はダメだ」という負のレッテルを貼ってしまう。その子どもの心は、絡まったネックレスの鎖のように、いじればいじるほど状況が悪化していく。犬や猫の子どもでもあるまいし、人間の子育てに正解などある訳がない。自分の子どもなのだ、自分の哲学に基づいて育てればいいではないか。子どもは、唯一無二の自分の分身である。そして子どもは、その親からしか生まれないという宿命なのだ。商売をする者たちよ、上に立つ者たちよ、いや全ての大人たちよ、哲学を持て!

「どうすれば魅力的な哲学を持てるようになるか?」
この質問にも正解などない。私がアドバイスできるとすれば、自分が魅力的だと感じる方へ偏ることだ。そして、その偏った価値観に他人が魅力を感じないとしても動じてはいけない。世間の価値観などいい加減なもので、時代とともに変わってゆくのだから。 さあ、自信を持って、大いに偏ろうではないか!」 はじめにより



あ/悪・粋・嘘・円・鬼
か/神・傷・癖・計・恋
さ/幸・質・隙・誠・損
た/旅・父・月・敵・友
な/謎・肉・沼・猫・脳
は/恥・暇・副・変・本
ま/的・道・虫・名・門
や/闇・夢・欲
ら/乱・率・類・例・老
わ/罠
を/乎
ん/吽

第十七話 「恐怖のゴミアパート、俺たちは天使じゃない!」一九九一年、平成三年六月。「臨時ニュースです。イギリスのバーミンガムで開かれている、第九七回IOC、国際オリンピック委員会総会で、一九九八年の冬季オリンピック開催地が長野市に決定されま...
26/02/2021

第十七話 「恐怖のゴミアパート、俺たちは天使じゃない!」

一九九一年、平成三年六月。
「臨時ニュースです。イギリスのバーミンガムで開かれている、第九七回IOC、国際オリンピック委員会総会で、一九九八年の冬季オリンピック開催地が長野市に決定されました。冬季オリンピックとしては、最も南に位置する都市ということで・・・」
「おー!見た?今のニュース」と岡野がテレビを指差して叫ぶ。
「え、何が?」と缶ビールを飲みながら羽嶋が訊き返す。
「一九九八年、冬季オリンピックが長野に決まったってよ。よかったな涌田、オリンピックの方からこっちにやって来てくれたぞ。お前の全く無駄だった努力も報われるな」と、岡野が日本酒の冷やのコップを片手に憎まれ口を叩く。
ロックウイスキーを飲んでいた涌田は「うるせーな、一九九七年っていったい何年後の話だよ!それに海外だから意味があったんだろが!」と岡野を睨み付ける。
2号須々木はウォッカなのか、テキーラなのか何か強い酒を黙々と飲んでいる。

明日は久しぶりの休日の日曜ということで、仕事が終わった後みんなでゆっくり飲もうかと、涌田のマンションに集まっていた。
「いやあ、しかしほんとに残念だったねえタコちゃん。便利屋タコ坊海外進出の野望、便利屋1号の無謀な計画により絶望に終わる。ってなあ」と岡野がしつこく絡む。
「ふざけんな岡野、お前しつこいぞ!だいたいお前が直前になって急に行かないって言い出すからだなあ・・・」
すると羽嶋が間に入ってたしなめる。「まあ、まあ、下らないことで言い合うなよ。涌田と忠ちゃん、お前たちははよくやった。うん。結果よりも可能性にチャレンジしたことに意義がある。岡野は自分が視察に行けなかったことをひがんでるんだよ。そうだろ?」
「そうだったのか、岡野」1号が神妙に言う。
「・・・うん・・・俺も、行きたかったよ」と3号。
「じゃあ、飲め飲め」と岡野の日本酒のグラスに、涌田が飲みかけのウイスキーを注ぐ。
「よし、俺のも飲め!」と羽嶋も調子に乗ってその上から更にビールを注ぐ。
「わ、止めろ!バカ!」
慌てる岡野を見て大笑いする1号と4号。
「どうすんだよ、これ?もったいないなあ。お前責任とって飲め!」と1号に突き出す。
「嫌だよ、お前に注いだんだから、お前が飲め」
「じゃあ、羽嶋お前、酒なら何でもいいんだろ?きさまが飲めよ」
「いや、俺は今日はビールの気分だから」
と揉めていると「はい、じゃあ俺が飲む!」と、須々木が手をあげた。
「マジで?」
「オーケー、何でも飲んじゃうよ」と言って岡野からグラスを奪うと「バルセロナに乾杯!」と叫んで一気に飲みほす。
三人から「おー!」という歓声が漏れる。
テレビコマーシャルで萩原健一がが丁度「うまいんだなあ、これが」と言っている。
すると須々木が「まずいんだなあ、これは」と顔をしかめる。
「バカだねえ」とみんなが笑う。

闇の中では影が見えないのと同じように、幸せの中にいると幸せに気が付かない。便利屋をスタートさせて五年目を迎え、自分たちがやっていることが、果たして社会的に意味があるのかどうかなんて分からなかったし、もっと単純に、自分たちが幸せなのかさえよく分からなかった。楽しいことよりも苦しいことの方が多かったはずなのに、ただ毎日笑いが絶えなかった。

深夜1時を過ぎたころ岡野が立ち上がった。
「さてと、俺はそろそろ帰るかな」
「あれ、もう帰っちまうの?これからが本番なのに?」と涌田がいたずらっ子のように言う。
「いやあ、これが、これなもんで!」と岡野が、小指を立てた後で頭に角の仕草をしておどける。
「ああ、分かってるよ。カミさんによろしくな」と羽嶋。涌田が羽嶋の大人びた対応に首をかしげる。須々木は早々と床に大の字になっていびきをかいている。ウォッカだか何だかのボトルが空になっている。
岡野は涌田のマンションを出て幹線道路を歩く。通りを真っ直ぐ3分歩いたところに岡野のマンションがある。四階の自分の部屋に灯りが付いている。
岡野がどんなに遅く帰っても葉子は先に寝ないで待っていてくれる。いや、正確に言うとベッドでは寝ないで、テレビのリモコンを片手にリビングで寝ながら待っている。帰ると必ず「あれ、いつの間にか寝ちゃった」と寝ぼけ眼を擦るのだった。でも実際は、テレビの前に座り、右手でリモコンを持ってテレビを点け、テーブルに突っ伏して三秒後に眠っているのだと思うが。
心配になって、岡野が足を速める。

翌朝、涌田は電話の音で目が覚めた。自宅の固定電話ではなく、事務所から転送された携帯電話にかかってきた。
時計を見ると昼の11時前だった。2号も4号も床の上で豪快に眠っていて、テレビも電気も点けっぱなしのままだった。
「あ、はい。便利屋タコ坊です」寝起きの声を絞り出す。歯も磨かずに寝てしまったので、口の中が粘りつく。
「あの、アパートの掃除をお願いできますか?」若い女性の声だ。
「ええ、もちろんできますよ。急ぎますか?」
「あの、ちょっと大変なことになってて・・・その、清掃会社さんに全部断られて、どうしたらいいか・・・」
「え!どういうことですか?」1号の目が覚めた。
「その、実は妹がこっちに住んでいて、数年前から全く連絡が取れないものですから、私が昨日鹿児島から出て来たんです」
「鹿児島から!」
「ええ・・・それで妹の住所のアパートに行ったんですけど」
「それで?」
「そしたらもう、大変なことになっていまして・・・その、妹はすぐに精神病院に入院させたんですが・・・」

注)一部画像を拝借している物もあります。

30/04/2020
第十六話 「タコ坊海を渡る!バルセロナオリンピックの野望」「立ち食いソバはありきたりだな、面白くないよ」便利屋3号岡野芳樹はそう言うとアイスコーヒーをストローを使わずに飲む。「じゃあ、座って食えばいいじゃん、ってそれじゃあ普通の蕎麦屋だよ!...
29/04/2020

第十六話 「タコ坊海を渡る!バルセロナオリンピックの野望」

「立ち食いソバはありきたりだな、面白くないよ」便利屋3号岡野芳樹はそう言うとアイスコーヒーをストローを使わずに飲む。
「じゃあ、座って食えばいいじゃん、ってそれじゃあ普通の蕎麦屋だよ!」と、4号羽嶋之雄が煙草の火を消しながら一人で漫才のノリ突っ込みをする。
「でも、立ち食いソバは儲かるらしいぞ。飲食店の中で最も回転率がいいからな」と1号涌田広幸がホットコーヒーを飲みながら答える。「一番効率が悪いのは喫茶店だ」
「悪かったわね、タコ坊さん。一番効率の悪いお店に来てもらって!はい、ピザお待たせ」とガーデンのママが焼きたてのピザをテーブルに置く。
「あ、いや、ガーデンさんは喫茶店と言うより、洋食屋さんです!」と1号が慌てて取り繕う。
「何言ってんのよ。どう見ても喫茶店でしょ。でももう少ししたら立て直して、レストランにするんだからね!」とママ。
すると3号がすかさず「さすが地主の御嬢さんはちがうねえ!こんなに暇な店なのに金がうなってるんだもんね」と、いたずらっ子のように舌を出す。
「もう、そんなこと言うなら新しいお店に入れてあげないよ!」とママが可愛らしくほっぺたを膨らませる。
その横でみんなの会話を楽しそうに見ながら2号須々木忠助がコーラを飲んでいる。
一九九〇年の年末、今夜は便利屋タコ坊の新事務所の向かいの喫茶店ガーデンで、四人は会議と言う名の暇つぶしをしている。ガーデンは、商店街から少し外れた住宅街の中にポツンとあったので、ランチでも夜でも比較的に空いていて、便利屋にとっては都合のいい特別会議室だった。
「さっきの話だけどさ、立ち食いそばがあるんなら、立ち食いカレーがあってもいいんじゃない?」と3号が話を戻す。
話しの発端は、都営新宿線の一之江駅の地上出口のところに、ずっと閉まっている立ち食いそば屋の店舗があって、だったらそこを便利屋で使ってみては、と岡野が言い出したのだった。不動産屋からの誘いでもなく、特に資金繰りのあてがあるわけでもなく、例の妄想会議だった。
「立ち食いカレーか、それは面白そうだな。日本人はたいがいカレーが好きだからな」と1号が煙草に火を点ける。
「いやあ、カレー屋とラーメン屋はありすぎて逆に難しいんじゃないの?都内は家賃も高いしね」と、4号がピザを頬張りながらネガティブ情報を放り込んでくる。
「だったら家賃ゼロの屋台カレーがいいんじゃない?」と3号も煙草に火を点ける。
「お、味平カレーか!いいねえ」と1号が昔流行った料理漫画の元祖の名前を出す。
「バカだねえ、屋台なんかヤクザにどんなけピンハネされると思ってんの?家賃の比じゃないね」と4号が豊富なマイナス思考を披露する。
「うるせえな羽嶋は、じゃあ海外で屋台カレーってのはどうだ?海外だったらヤクザだって文句ないだろ」涌田が羽嶋の意見を打ち消すように言ったが「いや、海外だってマフィアがいるっしょ!」と逆に羽嶋に打ち消された。
「海外で屋台カレー、いいね!ちょうど再来年バルセロナオリンピックだから、そこでやろうぜ、便利屋タコ坊の屋台カレー。いよいよタコ坊も世界進出だな!」3号が立ち上がって叫んだ。
「よし、じゃあ決まりだな」と煙を吐きながら一号。
「ほらまた勝手に決める」と4号。
「勝手じゃないよ。賛成多数だろ?だって忠はどっちでもいいんだから、なあ、忠?」と涌田が2号須々木に訊く。
「あ、俺っすか?俺は・・・どっちでもいい」と2号が今日初めて口を開く。
「そらみろ!」と1号が勝ち誇る。
「いや、忠ちゃん。どっちでもいいじゃなくて、たまには自分の意見を言ってみようよ。暴力に屈してはだめだ!」と4号が食い下がる。
「俺の意見?」と2号も煙草に火を点ける。
「そう、きちんとした自分の意見」
「・・・つまり・・・どっちでもいいというのが、きちんとした俺の意見だ」2号が美味そうに煙を吸って吐き出す。
「あちゃー」4号が頭を抱える。
それを聞いていた1号がニヤッと笑って煙草を消して「じゃあ、まず店の名前が大事だな・・・こういうのはどうだ、忍者カレー!外国人は忍者大好きだろ?店員は全員忍者服着用」と言うと、3号が
「そんで全員背中に刀背負って、カレー出した後にナルトを手裏剣みたいに投げて入れる!」
「ナルトは、ラーメンでしょ!それに本物の忍者でもナルトなんかうまく投げられねえよ」とそれでも4号はぼやく。
「で、客が来ない時はけん玉やってりゃ人が集まって来るだろ」と4号を無視して1号。
「けん玉って忍者と関係ねえじゃん」と4号。しかしそれを言うなら、もう駅前の店舗の話しとは全然関係なくなっている。
「あとさ、メニューはビーフカレーとチキンカレーに絞ってさ、店の名前は、忍者カレー『モウ、ケッコー』って言うのはどう?」とノリノリの3号。
「牛がモウで、鶏がケッコー、ってダジャレっすか?そりゃケッコウ」と4号がため息。
「おー、いいね!早速行動開始だ。忠、お前明日、保健所に行って営業許可書貰ってこい。調理師の免許持ってんのお前だけだからな、忠が食品衛生責任者だ」と1号。
「了解!」と2号。
「え!忠ちゃん調理師の免許持ってんの?」と4号が驚く。
ばかばかしい妄想の話がいつの間にか現実の話となっていた。
「よし、じゃあ取りあえず乾杯しよう、ママ、ビール四つ!」1号が立ち上がって指を四本立てる。
「待ってました、タコちゃん!」ビールを飲むために水分を一切取っていなかった4号羽嶋の目が光る。
「では、便利屋タコ坊のバルセロナオリンピックの野望に、乾杯!」と1号。
一気に気持ちよさそうに飲む四人。今日も日中はそれぞれの現場で肉体労働をしていたのでこの一杯がたまらない。
「くはーっ、よしじゃあ、やっちゃるか!便利屋タコ坊カレー計画イン・バルセロナ!ふぁっ、ふぁっ、ふぁ!」と、4号がはしゃぐ。
「お前何なんだよ!」と1号が呆れる。

「まあ悪い人達じゃないことは分かったけど、本当にバカな人たちなんだな、子供たちにはあまり近づかないように言っとかなきゃ」とガーデンのママは厨房で話を聞きながら一人思っていた。

バルセロナオリンピックは、一九九二年七月二十五日から八月九日まで開催される。
先ずは現地調査が重要だということになり、年明けの一九九一年二月六日から五日間バルセロナに行くことが決まった。現地に行かずとも東京で調べられることはいくらでもありそうなものだが、百聞は一見にしかずと計画がすすめられる。
視察要員はマフィアと互角に戦える?1号涌田と、機転の利く交渉人3号岡野。それに通訳を一人・・・その通訳が問題だ。英語ならまだしも、スペイン語が堪能な人間となるとなかなか知り合いにはいない。
「まあ、通訳は現地調達だな」と3号。
「そんな簡単に見つかるかな」と1号。
「金を払えばいくらでも見つかるだろ。こっちから連れていく費用を考えれば安上がりだ」
「なるほど、それもそうだな」
2号須々木と4号羽嶋は、その能天気で無鉄砲な計画に多大なる懸念を感じてはいたが、何を言ってもとばっちりが来るだけなので黙っていた。しかしこいつらのことだから、本当に何とか話をまとめてくるかもしれない、という根拠のない期待感もあった。

レポーター「こちらオリンピック会場の近くの屋台村から中継しています!スタジオの福留さん聞こえますか?」
福留「はい、聞こえますよ。そちらではオリンピック競技場の場外で凄い日本人が大人気なんですって?」
レポーター「ええ、そうなんです。ご覧くださいこちらでは深夜12時を過ぎているのにこの人だかり、何だかわかりますか?」
福留「さあ、何ですか?あ、今忍者が飛び跳ねましたね!」
レポーター「そうなんです。バルセロナではこの忍者が大ブームなんですが、実は日本の便利屋さんがこっちで出している屋台の忍者カレーなんですよ!」
福留「忍者カレー!?何ですかそれは?」
レポーター「いやあ、私にもよく分からないんですが、忍者とカレーという奇抜な組み合わせがこちらでは非常にうけておりまして、とんでもない忍者ブームになってるんですよ!あ、押さないで、押さないで、あー、いったんマイクをスタジオに・・・ズームイン・・・」

「ねえ、ちょっと起きてよ。大変なことが起きてる」と3号岡野の妻葉子が岡野を揺り起こす。
「あれ、俺寝てた?」と二人の住いのリビングで岡野はあくびをしながら上半身だけ起き上がると、葉子がテレビを指差していた。
「何、忍者カレーがどうしたの?」
「何寝ぼけてるの?ほら見てよ」
テレビの中の映像は、地上からミサイルが打ち上げられ、戦車が砂煙の中を行進し、戦闘機が次々に爆弾を落としていき、中東の砂漠地帯の建物が破壊されていく映像が映し出されていた。
一九九一年一月十七日、湾岸戦争が勃発した。イラクに多国籍軍が空爆を仕掛けたのである。

注)一部画像を拝借している物もあります。

第十五話 「大都会東京の光と闇、孤独な高齢者の独り暮らしの結末」涌田がオフィスで熊か狸のような全身用の着ぐるみを被って、後ろを向いて立って窓の外を見ている。社長(涌田)「いやー、この町もずいぶん変わったもんだねえ。えらい勢いでビルがにょきに...
20/11/2019

第十五話 「大都会東京の光と闇、孤独な高齢者の独り暮らしの結末」

涌田がオフィスで熊か狸のような全身用の着ぐるみを被って、後ろを向いて立って窓の外を見ている。
社長(涌田)「いやー、この町もずいぶん変わったもんだねえ。えらい勢いでビルがにょきにょき生えて、あっちの建設中のビルなんか300メートルあるそうだねー」
そこに事務員の制服を着た二十代の女性がやって来る。
サクラ「おはようございまーす」
社長「おはよう、サクラくん」
涌田が振り返るとその姿に女性は驚いて
サクラ「ぎょっ!・・・しゃ、社長!」
社長「あー、昨日渡した書類の件だがね」
サクラ「こらこらこら、何普通に話しかけてるんですか!」
社長「何のことかね?」
サクラ「何のことかじゃありませんよ、説明してください、その恰好のことですよ!」
社長「お、気が付いたね!」とにやりと笑う涌田。
サクラ「誰だって気が付くでしょ!」
社長「いやーはっはっは、ついにわしはやったよ、見たまえ、これは間違いなく特許もんだよ!」得意げにポーズを決める涌田。
サクラ「ただの着ぐるみにしか見えませんが?」
社長「まあまあ、話を聞き給え。確かに一見何の変哲もない着ぐるみが、実は現代ビジネス業界ののストレス社会における殺伐とした人間関係の問題を改善する画期的なアイテムなのだよ」
サクラ「はあ?」
社長「つまりこれをだね、管理職の制服として、大手企業に売り込むのだ」
サクラ「それがどーして人間関係の問題を改善できるんですか?」
社長「まだわかっとらんようだね、君は。大企業の管理職の人たちが、何を求めているのか考えてみたまえ。金も権力も手に入れた。しかし一つだけ手に入らないものがある。それは何か?人望だ!
ああ、部下たちよ。何故に君たちは私に冷たくするのか?私と食う飯はそんなにまずいのか。私と飲む酒は楽しく酔えないのか。まあいい、一緒に飯なんか食わなくてもいい。私の誘いを断って、同僚と飲みに行ったってかまわない。でも、お茶にふけを入れるのだけは止めてくれないか。私がいったい何をしたというのだ?それは私が妙に油っぽいせいなのか?そんなに嫌わなくてもいいじゃない。
辛い時代を乗り越えて、やっと手にした管理職、なのに心の中にはいつも隙間風がぴゅーぴゅーと、一人で飲む酒涙酒、お酒はぬるめの燗がいいいい、醤油は塩分控えめがいい。
これが世の管理職たちの悲しいさだめなのだ。そこでわしは閃いた。部長や課長が部下たちの人気者になればいいんだよ!これは盲点だったよサクラくん。
そこでひとたび部長が熊の着ぐるみを被りますれば、アイヤたちまちうちの部長は白クマさん!うちの課長はウサギぴょん!
こうなればもう部長や課長は仕事なんかしなくてもいい。お茶なんていちいち言わなくても、もう女子社員達がお菓子やケーキやお手紙をひっきりなしに持ってきて、もう忙しいよ。書類なんかにハンコ押してる場合じゃないよ。お手紙の返事書いたり、色紙にサインしたり、週に一回早朝握手会なんかあるって言うんだからもうアイドルですよ!
そうしたら酒飲んで上司の悪口言う奴なんかい無くなるどころか、社員たちも活気にあふれて、よーし俺もライオンさん目指して頑張るぞーとか、おい吉田、オレ今度イルカに昇進決まったぞ!おめでとう!とか、カモシカじゃない、カモハシ?カモ、カモ・・・長げえんだよ、台詞が!」といきなり涌田がブチ切れた!
「カット、カット!どうした涌田!」と舞台正面の机に座っていた舞台の演出の岡野が煙草の火を揉み消して立ち上がって叫ぶ。
「ちゃんと台詞覚えて来いよ!」
すると涌田がセットの机を蹴飛ばしながら「お前の台本、台詞が長すぎんだよ!」と怒りを岡野にぶつける。
「はあ?ふざけんなてめえ、台本通りにやるのが役者だろが!」と岡野が怒鳴りながら舞台に駆け寄る。
「いくら芝居だからっつって、こんなの設定に無理があんだよ!なんだよこの着ぐるみ!九月だぞ!殺す気か!」
「芝居ってのは、非日常的だから面白いんだろが!」
「その台本が面白くないって言ってんだよ」
「何だとこの野郎、じゃあお前が台本書いてみろ!チャンバラ以外でな!」
「てめえ、殺陣をバカにしやがったな」
着ぐるみを着たまま真っ赤な顔をして岡野を睨む涌田。その横でサクラ役を演じていた堀口泉が怯えている。
今日は岡野の主宰する劇団の第四回公演「眠れぬ夜のために」の稽古日だった。本番を十日後に控えて、一日中稽古ができる貴重な日曜日だ。時間が無い中喧嘩などしている場合ではない。こんなときチッチがいてくれたら「まあまあ、よっちゃんもタコちゃんも」と間に入って取り持ってくれるのだが、彼女は三回目の公演を最後に退団してしまった。
他の役者たちも、光化学スモッグ注意報が流れたときのように、また始まったかと憂鬱な気分になる。「もう岡野先生もタコちゃんもちゃんとやってよ!」と劇団員のキンタが泣きそうに叫ぶ。
そんなときにタイミングよく演出用の長テーブルの上に置いてあった携帯電話が鳴った。
「岡野先生、電話!電話!」とキンタが叫ぶ。
岡野が涌田を睨み付けながら舞台から降りて電話に出る。舞台から降りるときに蹴躓いた岡野を見て、口を押えて笑いを堪えながらキンタが電話を渡す。電話は、今月から電話番のアルバイトとして雇った矢部由実子だった。なんとなく雰囲気が皇太子殿下の弟と結婚した紀子様と似ていたので、みんなからキッコと呼ばれている。
「はい便利屋タコ坊です・・・ああキッコか、ああ、それで?え!まじ?うそー、で?うん、うん、えーっと、夕方ならなんとか、場所は?うん、分かった。じゃあまた連絡する」
岡野は電話を切るとまた舞台の涌田の方に走り寄る。
「涌田、大変だ!一人暮らしのアパートが、し、死んだ爺さんの後片付けだってよ!」
「落ち着け岡野!一人暮らしのアパートがどうした?」と涌田。
注)一部画像を拝借している物もあります。

第十四話 「便利屋タコ坊、新事務所完成の巻」「ついにやったな!」腕組みをした涌田が感動しながら大きな赤い「BENRIYA」の文字を眺めている。「よくここまで成長したもんだ」涌田の小さな目に涙がにじむ。一九九〇年二月、ローリング・ストーンズ初...
19/11/2019

第十四話 「便利屋タコ坊、新事務所完成の巻」

「ついにやったな!」腕組みをした涌田が感動しながら大きな赤い「BENRIYA」の文字を眺めている。
「よくここまで成長したもんだ」涌田の小さな目に涙がにじむ。

一九九〇年二月、ローリング・ストーンズ初来日公演。四月、日経平均株価が一日で千九百七十八円下落。六月、皇太子殿下の弟文人様、紀子様と結婚。七月、東ドイツと西ドイツが経済統合。九月、便利屋タコ坊、新事務所が完成。
外観はチープで倉庫を改造したプレハブ式の建物ではあったが、平屋根の上にはでっかい看板をかかげ、遠くからでも「BENRIYA」の赤い文字が輝いて見えた。
涌田はその事務所の、車三台が停められる駐車スペースに、買ったばかりのピカピカの青い1トントラックを駐車して、荷台に大の字になって寝転んで新しい城を眺めている。
他の三人はどうやら現場に出かけていて留守のようだ。
午前中まで曇っていた空が割れて、明るい陽射しが差し込んできた。遠くの方で、終わりかけている夏にしがみ付くように蝉が鳴いている。もう少ししたら実りの秋だ。

何事にも節目というものがある。便利屋タコ坊にとって今日はまさしくその節目の日なのだ。新しい事務所は、二十六坪の土地に十五坪の建屋、屋内は六畳間四つ分の広さがある。今までの鉄工所の二階の、たった四畳半しかなかった事務所から飛躍的な進歩をした。ビヤガーデンの丸テーブルひとつで、まともなデスクも引き出しもなく、よくこれまでの依頼の数々をこなしてきたものだ。駅からの近さも大躍進だ。今までは最寄り駅の都営新宿線「一之江」駅からでも、徒歩で30分はかかる本当の東京の端っこだったが、ここは地下鉄東西線「葛西」駅からたったの3分。走ったら1分。うさぎ跳びでも5分はかかるまい。駅前には都会らしくビルがあり、飲食店が立ち並び、スーパーがあり、本屋があり、貸しビデオ屋があり、これでようやく学生のアルバイトたちも簡単に事務所に来られるようになる。パチンコ屋がやたらと多いのが気になるが、きっと4号は喜んでいる。
もちろん今までの事務所には語りつくせない愛着はあるが、鉄工所の二階を間借りして、夜は飯まで食わせてもらうという環境は、残念ながら半人前という印象は拭い去れなかった。
しかし、今我々は独立したのだ。よちよち歩きで始まったタコ坊も、今ようやく名実ともに自立できたのだ!

想えばこの三年間いろんなことがあった。
便利屋を始めたころは仕事がなく、金もなく、煙草も拾って吸っていたり、2号須々木がキャベツ農家に行って廃棄用のキャベツを貰ってきて、それを煮たり焼いたりして毎日食べていた。それから寺の住職からトラック三杯分の海苔とかお茶とか缶詰、インスタントコーヒーや酒を貰った。あれは助かった。住職も檀家さんからの貰い物だったが、期限が切れているとのことで処分して欲しいと預かった。確かに海苔の缶には期限が書いてあったが、本当の期限は食べる人間が決めればいいのだ。ましてや酒なんかに期限もへったくれもない。酔っぱらえるかどうかだけだ。一年近く酒には困らなかった。
遊びに来るみんなからの差し入れの食パンも助かった。しかし何といっても母ちゃんの賄が無ければ確実に飢え死にしていただろう。

そう言えば2号須々木とはよく夜中の社会貢献に出かけた。
週末になると江戸川区の幹線道路に爆音とラッパ音の騒音が鳴り響いて住民が大迷惑していた。警察も忙しいのか、若気の至りに寛大なのか、パトカーのサイレンは聞こえない。
便利屋としては困っている人がいる以上、依頼されていなくても立ち上がるしかないと、2号と鉄工所のトラックに乗り、暴走族の後を追いかけ、後方から猛スピードで群れの中へ突っ込む。「キャー」と言う悲鳴が聞こえ、自由をはき違えている半端者たちは左右に散っていく。先頭を蛇行運転しているリーダー格の車とバイクのところまで来て並走すると「社会の敵、暴走行為は許さん」「俺たちは天使だ!」と叫んで、2号はモップで鉄パイプを持っているバイクの男を攻撃し、1号は箱乗りをしているシャコタンの車内めがけてサンポールを水鉄砲のように吹きかけた。
もちろん怪我人はいないし、あくまでも社会貢献のための行為で、決して仕事が無く、チラシ配りばかりの毎日に溜まったうっぷんを晴らしていたわけではない。
それから三ヶ月間は江戸川区には静かな夜が訪れたのだ。江戸川警察から表彰されてもいいはずだったが・・・。
2号は単純で不器用だがいい奴だ。人が嫌がる仕事を黙々とやり続ける。東京駅に新しく京葉線を作る工事をしていたとき、建材屋からの依頼で、100キロ近くある重たい鉄の防火扉をひと夏中ひたすら線路沿いに運んだ。重たい鉄の塊を、おんぶするように背中に担ぎ、足場の悪い暗い工事中のトンネルの中を運ぶ。ときには足場板の上を綱渡りのようにして歩く。一歩間違えば大けがに繋がる。その光景はまるで奴隷時代の強制労働のようだった。3号やバイトたちが音を上げる中、2号は文句も言わず何十枚もの扉を1ヶ月間運び続けた。

そして記念すべき便利屋タコ坊初めての仕事は、襖の張替えだった。貼り方もわからないのにできると見栄を切ったはいいものの、枠のはずし方さえ分からない。結局一本枠をぶっ壊して、襖の構造に気が付いた。まあ、何事も失敗からしか成功は生まれないのだからしょうがないだろう。しかしあの襖は仕上がりもひどかった。あんな皺だらけで、枠が一本折れてセロハンテープで止めてあったのにクレームを言ってこなかったことが今だに信じられない。実は襖を張り替えた後、依頼人の家に届けに行ったら、たまたま留守だったから玄関の脇に立てかけて帰ってきてしまったのだ。お金は先払いで貰っていた。ひどい話だ。今度もう一度訪問してみるか。「アフターフォローに来ました!」と言ってその場で張り替えてやったら喜ぶかもしれない。
いや、それはちょっと調子が良すぎるか。
調子がいいと言えば3号の岡野だ。劇団なんかやっているもんだから健康保険を持っていなかった。便利屋も始めたころは会社登記することなども知らず、社会保険にも入いっていない。そんなとき虫歯が傷んでしまった3号は、2号の国民健康保険証を借りて歯医者に行った。ほんとに調子のいい奴だ。人の保健証だから病院で「須々木さん、須々木さん」と呼ばれているのに気が付かず、大慌てをした。
また3号はおっちょこちょいで、飼い犬のヤスの食事中にちょっかいを出して、手を噛みつかれたり、工事現場で職人さんが「サンダーを持ってきてくれ」と言われて、サンダルを持って行って思いっきり怒鳴られたこともあった。サンダーとは鉄パイプを切る電動カッターだということを知らなかったのだ。
ああ、それからウンコ漏れ事件と言うのもあったな。
注)一部画像を拝借している物もあります。

1987年10月10日32年前、学歴もコネも無いバカ三人によって創業されました。
10/10/2019

1987年10月10日
32年前、学歴もコネも無いバカ三人によって創業されました。

住所

Edogawa-ku, Tokyo

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アラート

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